「暗闇バイク」と「コスト集中戦略」

最近「暗闇バイク」に通い始めました。
メディアの紹介などでご存知の方も多いかとは思いますが、「暗闇バイク」は薄暗いクラブ風スタジオで、大音量の音楽に合わせてインドアバイクを漕ぎまくる、というもの。
画像出典:FEELCYCLECホームページ
ふとしたきっかけでトライアルしたのですが、意外と楽しかったので、密かにダイエット効果を狙って、しばらく続けてみよう思います。
さてその「暗闇バイク」ですが、エクササイズとしての面白さはさておき、ビジネスモデルの秀逸さに思わず感心しました。

「コスト集中戦略」

「コスト集中戦略」はマーケティングや経営学の教科書を開いたことのある方なら見聞きしたことがあると思います。
アメリカの経営学者M.E. ポーター氏が唱える競争戦略の一類型で、一言でまとめてしまうと、
「専門特化してコスパを究極に良くする戦略」
です。
事例としてよく挙げられるのは「LCC(格安航空会社)」のケース。
業務範囲を狭めてシンプルにすることによって、少ない費用や労力で事業がまわるようにしています。
サウスウェスト、ライアンエアなどはビジネススクールで必ず取り上げられる著名ケーススタディです。
私自身もLCCに勤めていたことがあり、暗闇バイクのあちこちにLCCと似た点を発見して、勝手に親しみを感じました。

暗闇バイクが「コスト集中戦略」である理由

暗闇バイクは何故「コスト集中型」なのでしょう?
その理由を、
「バイク」「暗闇」
という2つのキーワードに注目して紐解いてみました。
① 「バイク」
暗闇バイクはインドアバイクに専門特化しています。それによって様々なコスト(資金と労力)削減効果が発生します。
  • プログラムがシンプル
    ヨガにエアロビに・・・といろいろと種類を取り揃える必要がない。
  • 機器がシンプル
    そろえる設備はインドアバイク1種類。これが1スタジオあたり30〜50台ぐらいズラっと並べるので、大量発注によって1台あたりの単価を下げることが可能。
  • メンテナンスもシンプル
    部品や検査項目が限られてくるので手間がかからない。外注する際には大量発注によりコストダウンが可能。
  • レイアウトもシンプル。
    スタジオを複数揃える必要がない。必要面積が少なくて済む
  • 人を雇いやすい
    必要なのはインドアバイクを教えるインストラクターだけで、多様な分野から人を集める必要がない。特別な資格も必要なし?(英語ができて自転車がこげればOK?)。
② 「暗闇」
暗闇は単に雰囲気作りだけではなく、物理的に固定費のコストダウンメリットがあります。
  • 地下でOK
    暗闇なので、高層階のガラス張りルームから見下ろす摩天楼的な景色は不要。地下は家賃が安い
以下は一般のスポーツジムとの比較をしてみました。あくまでも部外者の外部観察によるものなので、違っていたらごめんなさい。
暗闇バイクと一般のスポーツジムの比較
暗闇バイク 一般のスポーツジム
プログラム バイクエクササイズ1種類に特化している 多彩なプログラムを揃えている
機器 インドアバイク1種類のみ スタジオ設備、ウェイトトレーニング機器、プールなど様々な設備を設置する
メンテナンス インドアバイクのチューンナップのみ 設備ごとにチューンナップ法が異なる
敷地面積 スタジオ1つ分 複数スタジオ分
インストラクター インドアバイクのインストラクター1種類のみ 多様な分野からそれぞれの専門家を集める
場所 地下でOK 採光良く、視界の良いところ
まとめると、「暗闇バイク」は「一般のスポーツジム」に比べて設備費や人件費、家賃を安く抑えることができ、やることがシンプルなのでオペレーションの労力もあまりかからない。
それでもって、一般のスポーツジムと同レベルの会費を徴収しているので(私が入会したところは1ヶ月12,900円でした)、コスト効率が非常に優れているのだと思います。

シンプル&エクセレンスを維持できるか?がキー

コスト集中戦略で好きなところは、思い切ったシンプル化によってムダを削ぎ落として「オペレーション・エクセレンス」を追求する点。

ただ、LCC(格安航空会社)での体験からも痛感するのが、この「オペレーション・エクセレンス」を維持していくのが意外に難しい、ということ。

スタート時点は研ぎ澄まされたシンプルなビジネスモデルも、時が経つにつれて消費者に飽きられないようにするためにバリエーションを持つことが必要になったり、競合が増えていくにつれて差別化が必要になったりで、どうしても次第に複雑化していく圧力がかかってくるのです。

実際に「暗闇型ジム」としてインドアバイクに限らない多様な事業モデルがあります。厳しい競争環境の中でこれらの暗闇型モデルが今後どのように展開していくのか?

個人的には、先日入会した施設に対して、シンプルモデルを保ちつつ、店舗拡大によってスケールメリットを更に高めることで、ぜひとも会費を値下げしていただければ大変ありがたく思います(笑)