「声の大きなオジサンに乗っ取られる病」

◾️「マーケティング担当者はいるが実質機能していない」

少し前に行った企業相談でこんな悩みを打ち明けられた。

とあるモノづくりの会社だった。これまでは仕入販売を行なっていたが、仕入先の都合に左右されない自社オリジナル商品の開発と販売を始めて、ようやく軌道に乗り始めたところだという。

モノづくりのマーケティングはやる事が多い。発売した商品の販路拡大・広販促、成分やパッケージの改良、新商品の企画開発、売れていない商品のテコ入れ・・・

マーケティング担当者は、多岐多様にわたる業務を各関係者を取りまとめながら推進して行かなければならない。だが自分がこうしたいと主張しても、声の大きな営業担当がNoと言い、それが通ってしまう

これが「声の大きなオジサンに乗っ取られてしまう病」。

立ち上げ間もないマーケティングチームによくある事象である。

◾️何故「声の大きいオジサン」が発生するのか?

「声の大きいオジサン」は別にオジサンでなくてもいいのだが、職歴の長い大先輩社員であることが多い。そして大概が、かつて優秀な営業担当者だった人。

知り尽くした販売現場のあれやこれやの情報をかざして意見を言うので、妙に納得感がある。また、職歴が長いから何かしらの役職に付いている事も多く、その権限も加わって「声が大きく」聞こえる。(実際の声量も大きいが・・・)

「オジサン」に悪意があるわけではない。むしろ自身の経験と勘に基づいて「誠心誠意」モノ申している。

だがマーケティング担当者にとっては、ことごとく自分の考えが覆されてしまうから脅威以外の何ものでもない。そして「オジサン」の発言内容はそれらしく聞こえるが、どことなく釈然としない。豊富な経験と勘は尊敬するが、それに頼って進めることが本当に良いのか?

営業の視点とマーケティングの視点は異なって然るべきである。両者は重なり合うところがかなり多いが、全てが合致するわけではない。特に新商品を開発する場合などがそうである。

マーケティングは未来視点でものを考える。消費者のニーズや時代の流れを読んでその次を予測する。だがあくまでも仮説にすぎず明確な論拠を示せないことも多い。

一方、現在視点=過去の事例や現状にとらわれてすぎてしまうと競合とのつばぜり合いに終始し、現状を打破して新たな価値を生み出す思考ができなくなる。

◾️「声の大きなオジサン」に乗っ取られないようにするにはどうしたら良いか?

「声の大きなオジサン」が登場してしまうのは、実はマーケティング側に原因がある。マーケティングの方針を示せていないケースが非常に多い。

マーケティングの方針、つまりは目標とプランである。

言葉では簡単だが、これが一筋縄ではいかない。というより、目標とプランと言われても、何を目標とし何をプランしていいのか今ひとつわからない。

一つには、マーケティングの方針を策定するスキルとプロセスが非常に曖昧だからである。

そしてもう一つは、物理的に時間が確保できるか、という問題。日々迫り来る目先の課題をこなしながら、いつどうやって未来の話をじっくり考えたらいいのか?しかもプロセスがわからないから、どれくらいの時間を確保したら良いかもわからない。

一方、個人的に努力できる事としては、オジサンの豊富な経験に対抗できるだけの知識・情報を持つよう努力することはもちろんだが、最後に救ってくれるのはあなた自身の「熱意」

長年にわたり汗水流して蓄えられたオジサンの経験や勘に、にわか知識がそう簡単に打ち勝てるわけではない。だが、マーケティング・マネージャーの熱意やこうしたいという”強い”気持ちに「オジサン」は意外に寛容だ。共感してもらえれば「オジサン」は脅威どころか、非常に強力な味方になってくれる。